観てから読むか、読んでから観るか──文学と映画のあいだ

7月13日、東京大学文学部・野崎歓先生主催のシンポジウム「観てから読むか、読んでから観るか――文学と映画のあいだ」が行なわれました。文学界の名だたる識者が揃ったこのイベントを、聴講に伺った筆者の理解に基づいてレポートします。


今回のシンポジウムは、東京大学文学部フランス語フランス文学研究室野崎歓先生が編集された『文学と映画のあいだ』(東京大学出版会)の刊行を記念して開催されたものです。同じく東大文学部現代文芸論研究室所属でロシア文学がご専門の沼野充義先生、英語英米文学研究室の諏訪部浩一先生のほか、ゲストとして新作『冬の旅』を発表されたばかりの作家・辻原登さんが迎えられました。 当日は小雨がぱらついていたにも関わらず、会場の法文2号館2番大教室は学内外から集まった文学好きで埋まり、立ち見が出るほどの超満員でした。

進行役をつとめる野崎先生の挨拶から会は始まりました。どうも映画は文学の二次的なものとして考えられることが多く、それにより映画と文学の仲は悪くなってしまいがちなのだそうです。先生は、このシンポジウムを通して、そのような単純なものではない両者の結びつきを改めて確認し仲直りさせましょう、と意気込みを語られました。

沼野先生

パネリストとして最初に登壇されたのは沼野先生。前掲の『文学と映画のあいだ』に寄せた文章をもとに、ご専門であるロシア文学作品とその映画作品を引き合いに出されながら、映画のもつ5つの「効用」をユーモアたっぷりに述べられました。お話の中で最も印象的だったのは、映画は文字情報を映像化することで観る者を原作の世界により近づけながら、一方で単独の作品として原作とは別の価値をもつものだという映画の絶妙な立ち位置についての考察でした。この点が、映画と文学を考える難しさであり、また同時に魅力であるのかもしれません。最後に、それとは別に映画の効果として「原作を読んだ気にさせてくれる」と述べて会場の笑いを誘い、先生はお話を締めくくられました。

諏訪部先生

続いて登壇された諏訪部先生は、まず最近映画のリメイクが公開されたフィッツジェラルド原作の『グレート・ギャツビー』についてコメントしたのち、アメリカ映画とそれを取り巻く思想や社会の変遷をクールな論調でお話しされました。前半『グレート・ギャツビー』に関しては、原作では言葉の裏から醸し出されていたロマンティックさが、映画では華やかな映像で強く見せられてしまいすぎていると辛口の批評。後半は1931年から1940年にかけて3度映画化された『マルタの鷹』について、原作と映画の各作品で場面ごとに比較し、映画の検閲制度と関連付けながらアメリカ人の中のロマンティシズムと自意識の「せめぎあい」を分析されました。

ゲストの辻原さんは、ご自身いわく「昼は映画館で夢を見て、夜は眠って映画を見る」という幼少期の生活と重ねながら、独自の映画観をお話しされました。映画を夢の技法の外在化とする考えや、芸術はそれぞれの制約を条件としてジャンルとなりアートとなるという見解から、モノクロ・サイレント映画こそ映画の至高の形であると言います。続いて小説家の視点から、小説では登場人物の内面を記す地の文から鉤括弧で台詞を取り出すという発想から人物の描写として会話体があり、小説とも戯曲とも違う映画の台詞は、地の文や間接話法で書くものだという考えを述べられました。それこそ古い映画館で観るモノクロ映画のような、静かで深みのある語りのお話でした。

対談

最後に4人の先生方による対談が行われました。はじめに野崎先生が辻原さんの『冬の旅』とトルストイの『偽利札』を比較されると、それに対して辻原さんがドストエフスキーの『罪と罰』、諏訪部先生の講演にもあった『マルタの鷹』を話に出されました。その後はその4作品を中心に、映画と小説について、特に登場人物の内面と行動について意見が交わされました。サイレント映画ではあまり描かれなかった人物の内面が、近代小説では行動の動機として明確に記述されるが、そもそも人の内面が行動に先行するという考え自体がフィクショナルなものではないのか――。そこから話が広がり、小説における行動の描写や映画のワンショットが表現する人の内面についても議論され、話が尽きないままあっという間にお開きの時間がきてしまいました。 最後に先生方から、映画も小説も両方楽しんで、それぞれの良さを見つけてほしいというコメントを頂いて、シンポジウムは幕を閉じました。

豪華な先生方からのお話は本当に様々な視点が詰まっており、すべてを書ききれないのがもどかしいくらいです。「映画」と「原作」それぞれに考察を加え理解を深めていくことで、「どちらを先に」と片方に軍配を上げるのではなく、来場者の心の中で両者を歩み寄らせることのできたシンポジウムだと思いました。

参考書籍

『文学と映画のあいだ』(東京大学出版会 2013)
野崎歓 編
野崎歓、大橋洋一、塚本昌則、宮田眞治、沼野充義、藤井省三、柴田元幸、諏訪部浩一、野谷文昭 著

学内活動の情報

 2017年3月 

   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031 

イベントメニュー

≫今月のイベント一覧
≫カテゴリ別イベント一覧
≫イベント情報を登録する
≫イベント記事を見る

≫UT-Lifeトップに戻る

このページにコメントを送る
このページへの評価:いい!よくない!
掲載日:13-12-07
担当:平山いずみ
*