コミュニケーションから学びへ

 最近、よく耳にする「コーチング」。日本におけるコーチングの第一人者である本間正人氏は、「学ぶことは楽しいこと」と、「学習」という言葉の復権を目指している。学習学の構築を目指す彼が、これまでの人生の歩みを振り返るとともに、東大生に対し、今熱いメッセージを語る……


1.東大卒業生として | 2.学習学=ラーノロジー


本間正人さん

豊富な経験を通して

 中学と高校の頃は、文化祭、体育祭、音楽祭などいっぱい行事があって、よく遊んでいました。優秀な仲間に囲まれ、のびのびと過ごせたことがラッキーでしたね。大学に入ると、授業がつまらなく感じられて、本腰を入れて英語の勉強を始めました。毎週5日間、英語学校に通いました。そこで、今でも27年のお付き合いが続いている松野守峰先生と出会いました。松野先生は私にとっての師匠であり、真の教育者だと思っています。

 この頃の私は漠然と国際機関に興味を持っていて、ローマ・クラブのレポート『成長の限界』などから、大きな影響を受けました。卒業後、松下政経塾に進み、1984年にはウィーンの国連「国際青年年」事務局で実務経験を積み、また日本の代表的な国際人でもある大来佐武郎先生の秘書を務めました。1987年卒塾後はミネソタ大学ハンフリー公共政策大学院の学長をつとめていたハーラン・クリーブランド先生のもとで国際関係を勉強しました。

 この途中で、ミネソタ州政府貿易局の日本担当官としてスカウトされ、米国の地方公務員として貴重な経験をしました。いったん帰国した1992年、松下政経塾の研究主担当を勤めていた時、杉並区長の山田宏氏と、地域と学校の関わりについて提言をまとめ、教育と学習について深く考えるようになりました。「学習学」という言葉を思い付いたのもその頃です。ミネソタに再び留学して、成人教育学で博士号を取得。また伊藤守氏の紹介でコーチングを学びました。

 現在はNPO法人学習学協会の代表を本業とし、企業研修の講師をつとめると同時にNHKの英語番組や英語学習、コーチングに関する本の執筆など、いろいろな活動をしています。

本間正人さん

人間の可能性を引き出す

 今、一番大切なものは、と問われたら私は「信じること」と答えるでしょう。何を信じるかというと、人間の可能性です。「人間には可能性があるんだ」という人間性に対する基本的な信頼感を、今の学生さんには持ってほしいと思います。ある一時点では、うまくいかないこともある。失望することもあるでしょう。しかし、たとえ今回、成功しなかったとしても、それは「未成功」なのであって、次の成功の種になる可能性があります。

 広義の学習は「外界を認知し、自らの特質を活かして環境に適応していくこと」と定義できます。人間にとってコミュニケーションを通じ、学びあうことが最大の強みなのです。あらゆる生物が皆生存のために学習しますが、そのスピードはきわめて遅い。種が進化するには、何世代、何万世代もかかります。ところが、人類は言語コミュニケーションという手段を得て学習速度を飛躍的に高めました。

 ネアンデルタールとホモサピエンスの進化の違いは、声帯の長さと発音能力だったとも言われています。人類は、他者の経験や先人の知識を吸収することで、文化・文明を発達させてきました。肉体的には最強ではありませんが、コミュニケーションと学習力により、人類は、今日の地球上で最も優勢な種たりえているのです。

 そして、過去千年ほど、人間は外へ外へと、フロンティアを求めてきました。山を切り拓き、田畑を開墾し、キャラバンを組んで砂漠を越えて貿易を行ない、大きな船を造って新大陸へと漕ぎ出し、潜水艦を造って海の底へ、ロケットを造って宇宙空間へ、そうして外へ外へと可能性を広げてきたのです。しかし、今、人類が発展を遂げる最大のチャンスがあるのは、人間の内なるフロンティアではないでしょうか? 普通の人は、脳のキャパシティの3%くらいしか使っていないと言われています。

 そして、地球人類、60億人いても、誰ひとり同じ人はいません。多様性があればあるほど、交流した時に、シナジーが働く可能性が大きくなります。みなそれぞれ持ち味があるから1+1=3の可能性があるわけです。

 ところが、ハードウエアやソフトウエアはめざましく発展してきましたが、人間の内なるフロンティアを拓く「ヒューマンウエア」のテクノロジーはまだまだ未開拓なのです。最近注目されている、コーチングやファシリテーション、AI組織開発などは、まさにこの分野の萌芽と言えるでしょう。

 コミュニケーションを通して、お互いに理解を深め、可能性を引き出しあう「切磋琢磨」が、人類の未来を決める最重要ファクターだと考えられます。

本間正人さん

学問する姿勢

 学問とは「学びを問う」と書きます。だから学生は、先生に教わるだけではいけません。自分の理解を深め、自分の持ち味を知り、自他の可能性を引き出すことができる環境に今いるはずです。社会人になると「あの頃、もっと勉強しておけばよかった」と必ず言うものです。必ず言います。

 ですから、東大生であるという空前絶後のチャンスを最大限に活かして、コミュニケーション能力を高め、自分を磨く時間にしてほしいというのが私の期待です。東大のように、あれほど色々な先生が揃っている環境は他にありません。「講義を受ける」「試験を受ける」という教育学の枠組みから抜けて、自ら教授たちを質問攻めにすると、さらに良い勉強になるでしょう。

 東大生の中には、「東大に入りました。東大を出ました。」というだけで、何を身につけたのかよくわからないケースが少なくありません。数年間がブラックボックス化している場合があります。せっかくの大学生活、優秀な教授陣、優秀な仲間との出逢いというチャンスを最大限に活かして、自分自身の可能性を拓いていってほしいですね。

 私は国際機関で働いてみたとき、「この仕事は今の自分には合わない」と感じました。いつでもおもしろいと思ったことをやる主義なんです。そして今は、自分の専門分野、つまり「学習学」を確立するフェイズにいます。今後のビジョンの一つは、私が提唱している「学習学」という言葉を広辞苑に、「Learnology」をウェブスターに載せることです。そして、それは決して不可能ではないと思っています。


1.東大卒業生として | 2.学習学=ラーノロジー

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掲載日:05-12-12
担当:熊沢直美
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