東大生といるのが楽しくて

 駒場キャンパスの裏門を出て左へ歩いていくと、青いのれんのラーメン屋がある。その店の名は「山手ラーメン」。豚骨ベースのスープにスパゲッティのような細麺、そして他のどの店にもない美味しさ。開店から15年来、東大生に愛され続けている。そして、この店を開いた坂田達朗さんもまた、東大生を愛していた。

趣味が転じて本業へ

坂田さん

 僕は三流の大学を卒業してから1年ぐらいサラリーマンをやっていまして、23,4歳の時に独立しました。学生の時からずっとアルバイトでやっていた貿易関係の仕事で、当時はテニスが流行っていたので、テニス用品や洋服の輸出入をやっていました。そのうち洋服はオリジナルブランドで作ったり、それから自分の店を持ったりというので、5,6年やってましたね。その間に恵比寿で和食の居酒屋もやってたんですけど、それが山手ラーメンの原点みたいなものかな。もともと飲食業は本職じゃなかったんだけど、飲んだり食べたりするのが好きだったから、セカンドビジネスのつもりもなく、趣味でやっていました。でもその後バブルが崩れて、貿易関係が急に不況になりまして、その辺を全部清算したら飲食しか残ってなかったんです。元々趣味でやるならあまり混まなくてみんなの隠れ家のような店がいいなと思っていたんですが、もう飲食で商売しなくちゃいけない、食っていかなければいけないという状況になりました。そこで、当時店が入っていた恵比寿のビルが先輩のものだったので、その和食店を売って、新しく駒場にこの山手ラーメンを開く事になりました。それが15年前ぐらいかな。

 この店は元々和食の店をやるつもりで探していました。でもたまたまここをパッと見たときに、「ここはラーメン屋の方がいいんじゃないかな」と勘が働いたんです。和食の居酒屋をやっているとすごく在庫があるわけで、しかも新鮮なものを要求されるからロスが大量に出るわけです。だから飲食店をやるんだったら、在庫があまり出ないように、ラーメンや牛丼といった単品商売がやりたいと薄々思っていたんです。

「山手の味」へのこだわり

 和食屋をやっている時からどんなラーメンを作ろうかと考えていたんだけど、ラーメンの研究はこの店をオープンしてから始めたんです。色んなラーメン屋さんに修行に行くという方法もあったけど、そこまでする気はなかったし、修行すると先入観が入ってしまって、絶対修行先の味を超えないんだよね。だから僕は新しいものを創るときには先入観を入れずに自分なりに作ってみたわけです。確かに諸先輩方がやってきた事を真似した方が簡単だし、すぐ成功するでしょう。でもそれをやってると面白みが無いし、僕はたまたま「これは面白いな」と思ってラーメンを始めただけだから、諸先輩方のレールに乗る必要もないと思っていたんです。自分なりのラーメンを始めたのが今のこの形になってきたのかな。

店舗隣の製麺所

店舗隣の製麺所

 地球上にある素材を使うとある程度限られてしまいます。その限られた中でどのように作るかという問題になるから、ラーメン屋としての個性を出そうと思ったら、ある程度決まってしまうわけです。だからスープももちろんこだわってるし、麺も素材もすごくこだわってるけど、どちらかというと「山手の味だよね」というのがこだわりですかね。これで「あそこと似てるよね」というのであれば、他にも似てるラーメン屋はたくさんあるだろうけど、せめてこっち側からは真似したくない、って感じです。

ゆきラーメン

ゆきラーメン

 お客さんがよく頼んでいくラーメンは、メニューの順番どおり、豚の背脂を散らした甘いスープで作った『ゆきラーメン』です。その次は、「唐がらしラーメン」「焼ねぎラーメン」「焼にんにくラーメン」の順番かな。この辺がうちの定番というか、スープの味が分かりやすいラーメンです。また、この時期(編注:取材を行った5月)だったら「トマトラーメン」や「八彩(やさい)ラーメン」を、特に女の子に薦めたいですね。初めての人はまず定番から入って、9種類全部食べて、それから自分の好きなラーメンを決めて、あとは来るたびにそれを食べる。お客さんが「ここのラーメン屋はこれがおすすめだよ」って威張ってくれても構わないような品揃えをしているつもりなんだけど、お客さん同士の話を聞いているとそういう風にして食べてくれてるみたいだから、まあ思い通りですね。

 今は日夜研究してはいません。もうね、日夜研究するとお客さんが逆に嫌がるんだよね。「折角ラーメンを食べに来たのにどうして変わったんですか」って怒られちゃうんですよ。だから研究の成果は別のお店に出すようにしてます。今はこの店を入れて3店舗ぐらいやっていますが、ウチの場合は全部お店の名前も違うし、出してるラーメンも違うんですよ。どうせやるならもっと良いものを出したいという思いがあるから、それを次のお店に懸けているんです。まぁ、やりすぎて売れないときもあるんですけど(笑)。

東大生といるのが楽しくて

坂田さん

 ウチの客層は3,4割が東大生で、あとは教職員などの東大関係者が多いです。駒場キャンパスにいる7000人ぐらいの人達に使っていただいてます。あとアルバイトの子達は100%東大生です。だから「東大生が作るラーメン屋」というのを面白がってお客さんが来るという宣伝効果もあるわけです。だって日本一のIQが作ってるラーメンって食べてみたくないですか?(笑)

 東大生って日本一頭のいい子達だと思っていたし、そのイメージはこの店を開く前も開いてからも変わっていませんね。ただ一番ちがうと思うのは、理解力・集中力・意志の強さ・責任感があるという点です。東大生はしっかり勉強してますし、頭もいい子が多いですね。特にうちにアルバイトに来る子には素晴らしい子が多いですよ。教わる事も多いしね。つまらない事は僕の方がよく知ってるけど、東大生が専門に入ると面白い意見が多いから、それはもう聞きますね。もちろん店の営業中もアルバイトの学生とよく話すようにしていますし、聞いていて楽しいです。でもやっぱり東大生という皮を剥いちゃうと、そこにいるのは早稲田や慶応や他の大学にもいる普通の学生と同じ、一人の18,9の青年だということは感じます。

 アルバイトを100%東大生にした理由は特にないんです。東大にアルバイトの募集をすれば全部用を成してしまうので、他から集める必要がないというわけです。それは偶然近いから嫌々やっているというわけではなく、東大生のことが好きでそこに募集してるというのは覚えておいて欲しいんだけど(笑)。開店当時は駒場キャンパスの中に駒場寮というのがありまして、そこに400人ぐらい寮生がいたんです。僕もまだ30代で若かったので、駒寮生と麻雀をやりながらラーメンについて語った事もあります。僕のほうは年々歳をとっていくんだけど、駒場にいる学生は常に18,9か20歳だから、15年前から東大生に対するイメージは変わりません。

 でも昔と違って、変わってきたところもあります。最近はアルバイトを募集しても集まらないですね。昔から塾講師もあったし、家庭教師をやってる子もたくさんいたんだけど、ウチのバイトでも一度募集をかけると30人ぐらい来て、結構集まりました。最近は募集しても本当に4,5人しか来ないからちょっと寂しいかな。もうちょっとたくさん来てくれるといいですね、実際そんなに雇えないんだけど。でも皆でシフトを組んでいけば10人ぐらいの子達がバイトできるので、その人数は昔から変わってません。それで毎年10人ずつ送り出してるから、だいたい15年やってると150人ぐらいの子がウチのラーメンを食べて育っていってるのかなと思うと嬉しいですね。そうしてたまに卒業生が「数年前のバイトです」とかいって帰ってくるのも楽しみにしています。別に何かしてくれとは思ってないけど、「弁護士になりました」なんて言われたら、よし使ってやろうかとか思いますね。でもなかなか法的なトラブルが起きなくて(笑)。

地域一番店を目指して

坂田さん

 これからのこのお店としての希望は、隙を見せずにこれからも美味しいものを作っていくという所ですかね。なるべく周りの方々、例えば東大生に好かれるお店になりたいなと思っています。ウチの店は持って歩けるわけじゃないから、ここに居るんだよね。だから周りに住んでる人たちに好かれる、地域一番店になりたいなというのは日頃思っています。まぁそれはあまり叶っていないんだけど(笑)。でもそれはいつまでたっても目標であって、志は高い所にあったほうがいいかなと思っています。

 それにしてもやっぱり東大生って面白いですよね。下手な漫才見てるより全然面白いからね。だからそのまま特長を生かしてくれれば悔いはありません。あとは隣同士だし、一生懸命サービスするから、たくさん食べに来てほしいです。

プロフィール

坂田さん

坂田達朗さん

 昭和31年生まれ。昭和56年に有限会社を設立し、貿易業を営む傍ら、飲食店を経営。平成元年に株式会社トリアンゴロへ移行後、平成5年に渋谷区富ヶ谷(駒場キャンパス隣)に「山手ラーメン」を開店。現在は「山手ラーメン」の他、支店を2店舗経営している。

山手ラーメン

住所:東京都渋谷区富ヶ谷2-21-7
営業時間:
 平日・土曜 11:30〜27:00
 日曜・祝日 11:30〜25:00
定休日:なし
ホームページ:http://yamate-ramen.com/

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掲載日:07-06-20
担当:渡邉洋平
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