農学部長インタビュー

名前からは容易には想像がつかないが、生命科学分野の最先端の研究をしているのが農学部である。その農学部の特徴について、2007年4月に学部長に就任した生源寺眞一教授にお話を伺った。


1. 研究・教育について | 2. 社会とのつながり・学生に求めること


―どのようなことを研究しているのですか。

生源寺農学部長

農学部が取り組んできた問題としては、食の問題、バイオマスなどエネルギーの問題、それから木材に関係する住居の問題、あるいは絹や麻などの衣類の問題などがあります。自然に依拠した生活資材の利用全般が農学のもともとの領域だったと思うんですね。ですが、我々は自然の恵みを利用するだけではなくて、その再生産について取り組むということもありますので、現在ではもう少し奥行きが広くなっています。非常に広い言い方をすれば、森林や海洋などの生態系、つまり動物植物のいる空間であればそれが農学の守備範囲ということになります。もともとは産業を対象とするような学問だったわけですが、現在はそれを支える自然生態系全体をカバーする学問だと言っていいと思いますね。

特徴としては、生物系を扱うため実験などが簡単には再現できないという点があると思います。物理や化学では通常、同じ実験をやれば同じ結果が再現できますが、生物系の場合は傾向としてしか再現できなかったり、条件がコントロールできなかったりすることが多く、そういう意味での難しさや面白さがあるというのも農学部の研究の中で共通している点かと思います。

―研究の目的は何ですか。

少し大げさに言えば、人類の福祉ということだと思います。一番端的にいえば食料の問題ですね。地球上の人口は2050年には90億を超えると言われているわけですが、それをどうやって養っていくかという課題が我々のもとにあるわけです。最近では食料の需要に加えてバイオ燃料にも土地が使われていて、競合が高まっているわけです。そういった食料生産なり燃料生産なりを効率的にかつ持続可能な形で構築する、そのベースになる技術や科学を追究していく、というのが農学のミッションだと考えています。ですから、本当に基本的な部分をどうやって確保するかというところに我々の仕事の意味なり目的があるんですね。

農学というのは、すぐに役に立つかどうかは別として、人の役に立つ、ということをはっきり意識した研究だと言っていいと思うんです。ですから、そういう研究をしたいと思っている人にとっては非常にやりがいのある学問だと思います。今でも8億人の人が飢えや栄養不足の状態にあるわけですから、それを放置しておいていいはずはありません。そのことに関しては多くの方がさまざまな形で取り組んでいますが、我々は科学なり客観的な法則性なりを捕まえて、それを土台に生産の面から少しずつ改善していきたいということを考えているんですね。

―農学部の特徴は。

生源寺農学部長

農学部には、生物学をベースに研究している人が一番多いんですが、他にも物理学、化学、あるいは私のような経済学の人間もいるし、社会学、数学出身の人もいます。農学部には100の研究室があるんですが、100の研究室が別々のことをやっているんです。ですから、農学部自体に一つの大学のような性格があると思うんですよね。

同時に、幅は広いんですが、程よいまとまりがあるというのも農学部の特徴だと思います。100の研究室が別々のことをやっているんですが、それぞれのやっていることは結局は「人々の衣食住全体の問題の解決に何らかの形で貢献する」というミッションの下にあるのだという意識を、みんな頭の片隅に置いているんだと思うんですね。そういう理由があって、それぞれは別々にやっているけれどもなんとなくまとまりがいいんだと思います。

―研究とわれわれの生活とのかかわりは。

農学の分野ということで言えば、たとえば緑の革命があると思います。品種改良による緑の革命によって少なからぬ途上国は食料の自給を達成し、社会も安定したわけです。食料というのはある意味で絶対の必需品ですから、それを安定的に確保するということに、たとえば品種改良という形で貢献することができれば、人々の生活は安定しますし、社会も安定します。そういう意味での貢献は数え切れないと思いますね。

あるいは、変わったところでは、うなぎの研究があります。うなぎの養殖においては、稚魚を確保するにはどこかから取ってくるしか今のところ方法がないんです。ですが、うなぎの稚魚がどこで生まれ、どういう生活史をたどって成魚になるのかを把握することで、うなぎを最初から養殖することが可能になる事だってあるかもしれませんよね。膨大なエネルギーを使って稚魚を採取してそこからスタートする、といううなぎ作りではなくて、もっと資源を節約できる形でのうなぎ作りができるかもしれません。そういう形で、わりと成果は目に見えやすい形になっていると思います。

―教育の特色を教えてください。

非常にはっきりした特色があります。我々は、農学部での教育にはステップが3つくらいあると考えていまして、課程専修制というシステムをとっています。まず、3つの課程があって、大括りになっているわけですね。その下に専修が15あって、さらにその下に100の研究室がある、という形になっています。

農学部への進学が決まると、まずは「農学主題科目」という、農学部全体を対象とする講義を受けることになります。この講義で、農学のミッション、つまり農学は大きくどういったことを目標にしているか、ということを学んでもらうんですね。そして同時に、「農学基礎科目」というカテゴリーで、専門的な勉強の基礎の部分も勉強してもらいます。そして3年生になると、今度は「課程専門科目」という講義科目があります。それぞれの専門について、専門性の高い講義を受けるステップに行くわけですね。その次は「専修専門科目」というのがあるんですが、これは実験、実習、あるいはゼミになっています。4年生になるといずれかの研究室に所属して、そこで卒業論文を作成することになるんですが、この段階になるとそれぞれの専門のほとんどフロンティアのところまで行くという形になっています。今は、多くの方が大学院まで進学しますので、4年生の最後には大学院の人と一緒にフィールドワークなどをすることもあります。全体を通じて、はじめは広く、それからだんだん狭くなっていく、ということですね。

次第に専門性の高いところへ進んでいくと、それぞれがそれぞれの専門用語を使い始めて、隣の研究室の人が何をしているのかわからなくなってしまいます。しかし、農学の究極の目的は何らかの形で社会に貢献すること、人の福祉に貢献することだ、というのは忘れてほしくないんですね。そこをきちんと押さえるためには、いきなり専門へ入っていくよりも、もっと俯瞰的なものの見方や強烈な問題意識を持ってもらわなくてはならない。その場合には、専門の厳密な議論より、学部や課程のまとまりでの講義で大きな絵を示すということが大事です。もちろん、そこで終わったんでは大学教育としては意味がないので、その次に専修、そして最後は研究室、というシステムを作ったんです。

そして、正直な気持ちを言えば、どんどん専門性が高まっていって、国際的なジャーナルに投稿するような段階になったあと、もう一回出会いがあってほしいな、というのが私の希望なんです。学際的な研究という言い方もありますが、何か大きなテーマの下で、いろいろな分野がもう一度研究の上で協働しあうような場があってほしいな、と思うんです。それは40代、あるいは50代になってからかもしれませんけどね。


1. 研究・教育について | 2. 社会とのつながり・学生に求めること

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掲載日:07-08-30
担当:金井雄太
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