農学部長インタビュー

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現在、生命科学の分野は急速に発展し、私達の生活にも常に変化を与えている。少し古臭い名前とは裏腹に、実際にはその最先端の分野を開拓しているのが農学部であり、大学院農学生命科学研究科である。学部長・研究科長の會田勝美教授はどのような考えをお持ちなのだろうか。


1. 研究・教育について | 2. 社会とのつながり・学生に求めること


―どのようなことを研究しているのですか。またその目的は何ですか。

會田農学部長

農学部と大学院農学生命科学研究科はいわば小さな総合大学です。農業・資源経済学や政策などの社会科学に携わっている人、微生物や細胞、さらに植物や動物などの機能を遺伝子レベルで解析したり、バイオテクノロジーによる応用的展開を目指している人、私みたいに魚介類の生殖機構を研究して、海の資源を増やそうとしている人、獣医学の基礎や臨床分野の研究をしている人、生物と環境との関わりを様々な手法を用いて研究している人、海外で様々な農学分野の学術調査や研究をしている人、生物多様性や生態系再生をテーマに研究している人など、列挙するだけでもいろいろな分野に携わっている人がいます。

大学院の12専攻のなかで生圏システム学専攻は一番新しい専攻で、生態系の仕組みを理解し、人間社会と自然が融合した真に持続的な地球環境のマネージメントを創造することを目標にしています。現在5つの研究室がありますが、その中の一つの研究室では「鳥の渡り」の研究をしています。鳥に発信機をつけて、冬はどこへ行って、どこで夏を過してまた戻ってくるか、そういうことを一所懸命に調べている。今では衛星を通して、鳥がどこを飛んでいるかが研究室にいながらリアルタイムでわかります。そうすると、面白いことが次々とわかってきます。鹿児島で越冬した鶴が北上し、どこで一番長い期間休んでいるかというと、朝鮮半島の北緯38度線付近であった。韓国と北朝鮮の間の緩衝地帯は人が入らないから一番安全なのです。あそこで羽を休めてそれからまた北へ飛んでいく。そういうことがリアルタイムでわかるのですね。そういう研究をしている人がいる一方で、他の専攻では毎日遺伝子の発現解析や組み換えをやっている人もいるわけです。農学部の研究はとても幅が広いことがわかると思います。

―学部全体として何を目指しているのですか。

私達は生物ですから、食べ物を食べないと生きていけない。これを責任を持って提供するのが農学部です。食べ物は、まず量が確保されないと駄目ですよね。しかし量だけでは不十分で、今は質も非常に重要な問題になっています。安全だということも必要だし、おいしくなくてはもちろん駄目ですね。そういうことを全てクリアするのが農学部の一番大切な使命です。それにはいろいろなアプローチがあるわけです。作物を例にすると、田畑を作る際にどう畦道や水路などを作るとよいかということなどを生物・環境工学では考え、一方、育てるにはどのような品種がよいか、地域や環境によってよく育つ品種はどう変わるのか、味も保証されているのかというようなことを、品種改良に取り組む人は考えるというように。質・量ともに十分な食べ物をしっかりと確保していくことを、東大農学部としては日本の国だけで収束するのではなくて地球規模で考えていかなければいけないと考えています。食料生産の適地は特定の国や地域に偏っているわけです。したがって食料が不足している国や地域にいかに配分するか。当然国の利害が絡みますけれど、国家間の交渉や国際機関との連携や協力も必要です。そういう点から取り組むのもアプローチの一つですね。

また私達は食べ物だけで生きているのではなくて酸素を吸って水を飲んで生きているのですから、それにも対応しなくてはいけない。酸素は誰が作ってくれるかといえばそれは植物です。今、森林がどんどんどんどん伐採されてきている。もちろん私達が紙をたくさん使うなどして熱帯雨林が無くなってきたのですけれど、だからこそ植物をちゃんと生育させて、水源を守り酸素をきちんと補給してよい環境にしなくてはいけない。人が生きていくために、そういうことも農学部がやると。

私たちは石油に頼って生きてきましたが、石油は再生産ができません。ですからいつまでも石油に頼っている文明はやがて、どこかの時点で破綻します。持続的な社会を作っていくには、持続的に再生産が繰り返される生物に頼らざるをえないのです。その枠の中で私達は生き長らえる必要があるのです。今、「sustainable(持続可能である)」ということは重要なことで、その基盤づくりも我々農学部がやっています。

もし私達が病気になったら誰が治してくれるのかというと、それはお医者さん、つまり医学なのです。では農学部は何をするのかというと、病気にさせないことなのです。つまり良質な食料が充分あり、環境もよく、欲張った生活もしなければ、病気にもかかりにくい。抵抗力もついてくる。老人になってもお医者さんにかからずに、天寿をまっとうした、というような生き方がやはり理想だろうと思う。そういう風に人が生きられるよう支援することが、農学部のやるべき使命だと考えている。もちろん、感染症や遺伝的な病気を治したり、手術によって怪我や病気を治すことは医学にしかできないことですが、「よい食品をつくる」「よい環境をつくる」「防げるものは防ぐ」ことは我々農学部が目指すことです。

20世紀はいわば「作る(making)」工学の時代だったのです。物を作って世の中を便利にする。車を例にすると、炭酸ガスがたくさん放出されてどうなるかということをあまり考えずに車を作ってしまう。便利だし、儲かるから。しかし、どのような弊害が起こるかまで考えて物事を行わないといけない時期に来ている。作りっぱなしではもう許されない。私たちは、21世紀は「育てる」がキーワードになる世紀だと言っている。「growing」。つまり、生物を育ててその「上がり」を頂いて生活していく。そういう時代がもう来ているのだと思います。「making」から「growing」というのがそのコンセプトです。それは言ってみれば我々の生き方にも関わってくるわけです。私は以前、車が好きでよく車に乗っていたのですが、ここ数年は殆ど車に乗らないのです。帰りは農学部から歩いて浅草まで行く。そして電車に乗って帰ってくる。その方が健康にもいいし、メタボリックシンドロームにもならない(笑)。もしも皆さんがそういう考えで、できるだけ車には乗らず少しの距離は歩くのだとか、たくさん食べ過ぎないとか、そういう生き方をすれば世界は少しずつよい方向に向かっていくでしょう。実際にはなかなか難しいことですけれど、そういう農学的な思想や生き方がこれからは重要だと発信することもやはり我々農学部の使命だろうと思います。

―教育の特色を教えてください。

會田農学部長

農学部の前身は今から130年ほど前に出来たのです。最初の頃はいろいろな学科が出来てくる。農学科が出来て、それから農芸化学科が出来て、と8学科体制を作るのに80年ほどかかりました。その時はすでに20世紀の半ば過ぎですから農業がだんだん衰退していた時期だった。そうすると教養学部の学生諸君にも人気がなくなって進学定員を大分下回る時代が来た。進学振り分けで農学部に来てくれるようにがんばってPRしても来ない。そんな時期が続いていましたが、十数年前に大学院重点化という動きがおこった。それまで、私達先生は「学部の教授」だった。大学院自身には先生がおらず、学部の先生が大学院手当をもらっていわばついでに大学院生を指導していたわけです。ところが実際には研究室の中は20人くらいの大学院生がいて学部の卒論生は数名しかいない。圧倒的に先生の仕事も大学院生の指導が主であった。だったら先生は皆大学院に行ったらどうかということで大学院重点化という動きがあって、1994年に私達は「大学院の先生」になった。今、学部には大学院の先生達が教えに来ている、というシステムになっています。

その時、農学部はどういうことをしたかというと、学科は全て大学院の専攻という形でそのまま上にあげて、学部の方はもう学科を無くしてしまった。なぜかと言うとそれまでは学科の壁が障害だったからです。水産学科なら水産学科で教員と学生がまるで一家をなしていた。したがって団結力はものすごく強い。しかし農学は総合科学とはいいながら隣の学科が何やっているのか、どんな先生が居るのか、という事がわからなかった。みんな個別科学の中に入っていて、しかも研究室さえ小講座というもので分かれていた。このままでよいのか、という意見の一方で学科は絶対必要だという先生もいたので、学科は専攻と名を変えてそのまま大学院の方に持っていくことした。そして学部では学科はシャッフルしようということで課程制にした。そうしたら途端に駒場からの進学者が一気に増えたのです。今は、応用生命科学、生物環境科学、生物生産科学、地域経済・資源科学、獣医学の5課程で、そのなかでさらに専修で分かれている。このシステムに変える際に、今まで学科で教えていた科目はちゃんと履修することが出来るシステムにすることが課程制を受け入れる条件だという強い要望が学科からだされた。どういうことかというと、それまで水産学科の必修科目と選択科目を勉強すれば国家公務員「水産」の試験が受けられたので、それを保証しろということであった。

その時私は課程制のカリキュラム作成を担当していましたが、いろいろ考えた末に「自分の進むべき道を考え、自分のカリキュラムは自分で作る」というコンセプトに思い至りました。そこで必修科目は無くして授業は全部自分で選択することができるようにしました。だからある特定の分野だけ学ぶということも可能です。国家公務員試験を水産で受けたければ昔の水産学科のようにとりなさい、でもあなたが環境学を専門としたいなら環境関連の科目を履修することも可能ですよと。自分で自分の将来考えて、自分のカリキュラムを決めなさい。そういうコンセプトが今の課程制の背景にあるのです。しかし、自由なところが学生にとっては非常にシビアになっているようです。これを勉強しなさいって言われてやるのは易しいのですが、自分で考えろといわれるとみんな途端に困ってしまうようで。優(注: 成績評価のうち最も良い評価)をくれるところばかりに行ったりね。みんな「○○学」を取るわけです、優が取りやすいから(笑)。その辺は割り切っています、私は。50何万円の授業料払ってそういう勉強するならそれは本人に報いがくるのだから本人の責任だと冷たく突き放している。本当は授業料払ったらその分取り返さなければいけないのじゃないのかって。もちろんガイダンスをやって、教員には学生諸君の相談には乗ってもらっています。

これまで課程制では、5課程22専修で、進振りをやってきたのですが、これは教養学部の事務の人にはとても評判が悪い。制度が複雑で事務処理がすごく大変だから。また平成18年の入学生から進振りのシステムが変わって全科類枠が設けられるので、その対応も含めて農学部は課程制と学科制の良いところを取り入れてもっとすっきりした3課程15専修になります。この3課程の分け方はシンプルで、一つ目は6年制のため別枠の獣医学課程、二つ目は大学院の名称の「農学生命科学研究科」の「生命科学」に対応する応用生命科学課程、三つ目は「農学」に対応する環境資源科学課程となっています。


1. 研究・教育について | 2. 社会とのつながり・学生に求めること


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掲載日:07-02-27
担当:養田直倫
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