工学部長インタビュー

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今回の学部紹介は、工学部長の保立和夫教授のインタビューである。工学部は17の学科を持ち、学生約2000人が在籍する東京大学で最も大きな学部であり、産業界との結びつきも強い。そんな現代の産業社会を支える工学部のこれからについて、保立和夫学部長にお話をうかがった。


1. 研究・教育について | 2. 社会とのつながり・学生に求めること


―どのようなことを研究しているのですか。またその目的は何ですか。

保立工学部長

「『科学技術』の『科学』と『技術』ってどう違うの?」とか「理学部と工学部って何が違うの?」といった質問があるんですが、「科学」と「技術」、「理学」と「工学」っていうのは実は分け難くて、つながっているんですね。強いて分けるとするなら、真理に向かって探究していくという姿勢が強いのが理学で、社会に対して何か価値を発信できないだろうかと考えているのが工学だと思うんです。でも、根っこにあるのは「科学技術」という四字熟語であって、それは切っても切れない関係にあります。

そういう原点に立った上で、では工学部としてはどういう研究をしているのかというと、科学技術をベースにした社会に役立つ研究は実は何でもやりたいと思っています。だから、土木・建築といった分野から、機械や航空、電気、精密、それから化学まで、ものを作っていくために必要な学術領域は一応全部東大の工学部ではやっています。これらは、基礎から応用へと、いわば縦につながる専門領域だと考えることができますね。また、ものを作るにあたっては、部品を一つずつ集めてきて下から積み上げて作ることもできますが、全体としての機能をデザインして、そこから段々ブレイクダウンしていくという考え方も大事です。小さな工業製品のようなものであればどちらでもあまり変わらないかもしれないけど、たとえば東京都の街づくりをどうしましょうとか、エネルギーの発電から消費までをどう運営しましょうとかいうことになると、全体的に俯瞰する視点が必要になる。システム創成学などがそういう分野になりますが、全体を俯瞰して、領域の間に横串を入れるような分野も考えています。

20世紀は、“もの”をたくさん安く作っていく時代で、21世紀は“もの”よりも生活の質を大事にする時代だとよく言われています。環境がきちんとしていること、安全であること、安心であること、健康なことなど、“こと”でくくれるようなものを世の中は目指しているんだろうと思うんですね。すると工学部も、20世紀の“もの”を作る時代から、21世紀の“こと”を実現する時代に教育も研究も振れていかないといけないな、と思っています。

“こと”を実現するためには、従来からの一つ一つ閉じた研究領域で研究しているだけでは不十分になってきているのではないかと思うんですよ。そこで、工学部では、もちろん従来通りの部分でもしっかり研究も教育もしているんですけれども、もうちょっといろいろなコラボレーションをして“こと”を実現するような研究体制づくりを進めています。たとえば、医学部と連携して、遠隔手術用のロボットの研究や、体内の侵されている部位に直接薬を届けるドラッグデリバリーと呼ばれるような研究を進めています。また、グローバルCOEという文部科学省のプログラムを利用して、工学部の中でもこれまでバラバラで研究していた人たちが協力し合って連携研究をするような仕組みを積極的に作っています。

最近「イノベーション」という言葉がよく使われます。「イノベーション」というのは技術屋からすると「技術を使った社会革新」ということなんですけれど、要は「新しい価値が出てくることで社会が変わる」ということだと思います。その「新しい価値」と言う時の価値は、すでに単一の“もの”の価値ではないんですよね。何かが融合することで社会を変えるような「新しい価値」が出てくる。そういうところに気持ちが移っているというところはあると思いますね。

―教育の特色を教えてください。

保立工学部長

工学部は“こと”を実現するのが目標だと言いましたが、それはやはり基本的にはものづくりの中で“こと”を実現する、ということです。ただし、ものづくりとはいっても形がある“物”ばかりではなくて、「都市をどう総合的にデザインするか」とか「技術をどうやって運営して産業化していくか」ということなど、広い意味での平仮名の“もの”を扱っているのが工学部なんですね。そこには、教科書の中の文字に書き込むだけでは済まない要素が含まれているので、実験や実習、演習が大事になってきます。いわゆる座学だけではなくて、体力を使いながら、腕を使い場合によっては脚を使うようなものをうまく教育の中に取り入れているのが工学部の特徴だと思いますね。

また、私が特に意識したいと思っているのは「国際性」というキーワードですね。それぞれの学問領域でしっかり勉強してほしいというのは当たり前のことで、それに加えて「国際性」というものをもうちょっと培ってほしいなあと思っています。そのために、外部の語学学校の先生を呼んで「スペシャルイングリッシュレッスン」という授業を作っていますし、学部の講義のいくつかをあえて英語でやる、ということも考えています。それともう一つ、“こと”を実現するために、自分の専門のちょっと横を見渡せるような講義の仕組みを作りたいとも考えています。


1. 研究・教育について | 2. 社会とのつながり・学生に求めること

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掲載日:08-11-17
担当:金井雄太
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