工学部長インタビュー

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東大の学び「学部紹介」第3弾は、工学部長の松本洋一郎先生のインタビューである。工学部は18の学科を持ち、学生約2300人が在籍する東京大学で最も大きな学部であり、産業界との結びつきも強い。そんな現代の産業社会を支える工学部のこれからについて、松本洋一郎工学部長にお話をうかがった。


―どのようなことを研究しているのですか。またその目的は何ですか。

松本工学部長

工学部でどのような研究をしているのかというと、科学技術に関する研究をしています。一般的にサイエンスと呼ばれるもので、自然界で起きているさまざまなことをどうやって解明するか、どういう風に現象が起きているかということを研究しています。しかしそれだけでは不十分で、その科学技術を使って、どうすれば社会や人間の役に立てるかというところまで研究するのが工学です。現象を理解するだけではなく、理解した知識をどうやって人間のために役立てるかが重要なのです。

そういった意味では、医学でも同じようなことをやっているわけで、最近では医学部でやっているさまざまなことを、工学の観点から一緒に研究するような、医工連携といったこともやっています。ただ医学と工学は、その研究の対象に違いがあると思います。医学のターゲットは人体だったり、生命体であるのに対して、工学というのは人間を取り巻くすべてのことに対して、技術として人や社会全体のために何ができるかということをやっています。

そう考えると、社会の仕組みも工学の一つの対象となるわけで、金融工学など社会科学的なことも研究して、社会がうまく回っていくのに一役買っています。このように、自然界の真理を探求した上で、それが人間という視点で役に立つところまで持っていく過程が、工学の守備範囲に入っていると言えるでしょう。

―学部全体として何を目指しているのですか。

やはり一言でいうと、人の福祉や健康など、人類の幸せのためにできることをするのが工学の目的です。「あるところからあるところへ早く行きたい」とか、そういった我々の持っている願い、求めている利便性などを実現するためにはどうすればいいのかを考えています。しかし、これが悪い方向に使われてしまうと、軍事研究になってしまう恐れもあります。軍事だって国を守るためだといえば良いものになるのかもしれないけれども、工学はそういういう方向ではなく、平和になるためには、平和を守るためにはどうすればいいのかといった観点で研究しています。

また、昔は工学というと、いろんな機械なり何なりが出てきて、その原理を解明して、新しい装置やシステムを作っていくということだったんだと思いますが、最近ではそれだけではなく、もっと幅広い分野に視野を広げて、技術経営やバイオエンジニアリング、医工連携など、さまざまなところに工学的な考え方や手法が生かされつつあります。

―教育の特色を教えてください。

松本工学部長

工学というのは、先に述べたように非常に広い領域をカバーしています。具体的にどういう分野があるというと、まずは人間が住む住居やビルを作ったり道路を引いたりといったインフラストラクチャーを扱っている建築系、半導体などのデバイスを扱っている電気系、自動車や航空機、船、ロボットなどといったモノに関連する機械系、そして、モノにするのに必要不可欠なマテリアルの部分、ローマテリアルを我々が使えるモノにするのに必要な化学系、物理的な知見を工学に生かしている応用物理、原子力などを扱う総合系といったものがあります。それからもう一つは、情報そのものの教育も行われていて、いろんな仕組みやロジック、情報理論といったことを扱っています。

これらが融合して工学になってくるわけで、工学部ではわりとスコープの広い教育を行っているのが特徴です。どこか一つの専門分野を自分自身の中で持つことはもちろん大切ですが、工学として本当に人のために役に立てようと思うと、広い分野の知識も必要になってきます。どのように視野を広げているかというと、例えば技術経営的な教育を行っています。さまざまな技術があって、それをモノにしていくには、ある種の経営的なセンスも必要になってくるわけです。T字型の構造とよく言われているけれども、工学には専門性だけではなく横のつながりも必要なのです。場合によっては専門分野は一つだけではなくて、複数持っている必要になることもあるから、πの字型と言われることもあります。

―社会への応用や産学連携など、社会とのつながりを教えてください。

産学連携でいうと、研究面では多くの先生方が企業と一緒に研究をしていますし、コンサルタントとして指導をしている方もいらっしゃいます。工学の出口としては、最終的にモノになって、産業界が作っているいろいろなモノに我々の研究が生かされていかないと意味がないわけです。だから、産業界と非常に密な連携を持っています。

また人材を産業界に送り込んでいるわけで、どういう教育をして、どういう知識体系を持っている人が必要なのかというのも、産業界の人と一緒にディスカッションしています。以前は、若い人材がさなぎから蝶になるためには、産業界の中で自前で教育をすれば良かったのだけれども、最近ではそれほど余裕もなくなってきていて、即戦力となる人材が求められています。さなぎではなく、やっぱり蝶が欲しい。同じ蝶なら美しいアゲハチョウのほうが良いと言われるようになってきているのです。そういう意味で、教育についてもある種の産学連携が動き出していると言えると思います。

もちろん大学の中の教育だけでは、なかなかうまくいかないわけで、インターンシップなどで1ヶ月ぐらい企業の中に入って、そこで実際に体験することによって、企業でどのような問題意識を持っているかが分かりますよね。そうすると学生のモチベーションや問題意識の持ち方も変わってくるから、教育の質そのものを変えることもできます。そんなことも、最近では当然のこととして行われています。

20〜30年前は、日本はトップランナーではなかったから、アメリカなりヨーロッパなどのモデルがあって、大学と産業界はそれぞれ外国から技術導入をしていれば、産学連携など必要なかったわけです。でも、今は日本がトップランナーになったわけで、新しいことを自分自身で行わなければなりません。技術を導入するのではなく、それを作るということになると、当然産学連携は必須のものになってくるわけです。

―今の学生に求めることを教えてください。

松本工学部長

僕らが学生のときは、わけの分からない講義をする先生は偉い先生だと思っていました。最近では、わけの分からない講義をする先生は悪い先生になっちゃうことが多いみたいだけでども、勉強するというのはもう少し我慢強くやらないと、新しい境地にはなかなか立てないと思うんです。例えば受験とかいうのは、問題を見てパターンマッチングでパッと解かないとダメになってきている。一歩一歩積み上げて問題を解決するというような考え方がなかなかできないような教育をされてきてしまっているのです。

もう少し遠回りでもいいから、事の本質が何かということを考える姿勢を身につけて欲しいのです。ベースに立ち戻って考えて筋が通せるようになると、いろんなことに応用できるようになります。全く違った問題だと思ったものも、同じような考え方をすれば、その高みに登ることができるのです。事の本質に戻って解決すると、それはどこでも扱えるということだと思います。社会には、問題の設定すら分からないような問題がたくさんあります。そういった問題を解決していこうと思うと、やっぱりベースからもう一度積み上げて考えるというプロセスが重要になってきます。だから、それを嫌がらずにやるという姿勢を身につけて欲しいと思います。


産業界に直結する工学部だけに、人のために技術を役立てていこうという強い姿勢がうかがわれました。また、単にモノを作ることだけではなく、社会のシステムなど幅広い分野に工学の知識が生かされてきていることが分かりました。これからの社会への貢献に期待したいと思います。

工学部ホームページ: http://www.t.u-tokyo.ac.jp/epage/

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掲載日:06-07-27
担当:廣瀬俊典
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