教養学部長インタビュー

入学してから少なくとも2年間を過ごす教養学部。一つの学部の中で文系・理系を問わず幅広い研究・教育を行う教養学部を設置する大学は珍しい。2009年4月に学部長に就任された山影進教授に、教養学部の研究・教育についてお話を伺った。


―教養学部ではどのようなことを研究しているのですか。またその目的は何ですか。

山影教養学部長

1つの大学の中で専門分野・研究分野を重複しないというのが大前提になっているので、教養学部を第2次世界大戦後に創設するにあたって、本郷で行われている研究とは違う学問をするということが必要になりました。それで、国際関係論や文化人類学や人文地理学が出来たわけですよ。本郷で行われていた既存の学問体系とは全く異なる学問体系が駒場の教養学部で行われ始めました。今にしてみれば、国際関係論も文化人類学も人文地理学も科学史・哲学も他の大学でいくつも開講されていますけれど、そういうところの出発点――日本における学問の最初はだいたいこの教養学部の駒場キャンパスから生まれたんですよね。

そういう経緯から、総合文化研究科・教養学部のモットーとして学際性・国際性・先端性ということを打ち出すようになったんですよ。ですから、別に無理して学際的な学問は何があるだろうかとか、先端的・国際的な学問があるのか、これをやろうあれをやろうじゃなくて、教養学部が出来るときから、結果としてそういうものをやらざるを得なかったということがあります。今までとは何か違う新しいことをやろうとした結果が今の駒場キャンパスの研究と教育の形になった。そういう歴史を踏まえて今があるわけですね。

―学部全体として何を目指しているのですか。

教養学部の学部として目指していることは2つありまして、1つは、ほとんどの学生が本郷に行ってしまうので、それを前提として教養教育と基礎教育の両方をやることです。もう1つは、駒場で3,4年生まで通じた一貫した高度な教養教育をするというのが、教養学部の第二の目的です。

そうすると教養教育とは何なのかということになりますが、これも2つあって、1つは外国語の重視です。今まで学生が育っていた日本の社会を相対化して見るために、日本以外の目線を通じて知ってもらいたいと思っています。高校まで学んできたことや日本社会しか知らない人に世界の広さを分かってもらおうということです。

もう1つは、狭い専門をあえて教えないということです。本郷に行ってしまえば、それぞれの進学先で学問を勉強してという形になるわけですけれど、1,2年の間はそういう専門の狭い学問分野をあえて勉強してもらわないようにしています。3,4年の後期課程もそうで、本当に専門のことをやりたかったなら、大学院に行ってからやってね、という教え方をしています。

東京大学では、リベラル・アーツや教養教育を重視していて、細かい専門分野をあとで学ぶという“Late specialization”に取り組んでいるのですが、この理念全体を支えているのが教養学部の教育の仕組みということになりますね。

―前期課程の教育の特色を教えてください。

山影教養学部長

前期課程では、3,4年あるいは将来にどこの専門分野に行くか決まっていないというのを前提として、幅広い勉強をしてもらうのですが、3,4年に行きたい学部の要求している科目と、ある程度成績の点数があれば、どこの学部にも行けるということが最大の特徴です。1年生のときになになに学部なになに学科に入っちゃったから、それを4年生までやらなくちゃいけないという制度にはなっていません。

道を変えるチャンネルがみんなに対してあるんだけれど、逆にみんなに対して開放されているから、ある種の競争が起きてしまいます。本当はみんなの行きたいところに自由に行ければ良いのでしょうが、教員とか設備がそれほど流動的ではないので、どうしても学生の数をある程度限定しなければなりません。

学生さんの身になってみると、点数を高めるための勉強もしなければならないという本末転倒なところはあります。ですが、行きたいところに行くためにはある程度点数がないといけないということからしてみれば、ある程度合理的な方法であるので、我々としてはどういうふうに、本当に学びたいことをやって、かつ点数も取れて、きちんと進学できるかという制度設計を考えています。

―後期課程・大学院の教育の特色を教えてください。

後期課程では細かい専門はどこでも教えていませんけど、新しいタイプの学問をやる必要があるという意味では、国際性や学際性といった特徴のある教育をしています。現在後期課程には、6つの学科を3つの学科に再編しようという動きがあります。文系の学科と理系の学科とその中間にあるような文理融合の学科の3つに分ける予定です。

大学院は教養学部が60年前に出来た当初からの、新しい学問をより深めるという意味での大学院教育と、それと同時にいろいろな研究分野の先生がいることを利用しての大学院教育の2種類が進んでいます。現在文系に4つの専攻、理系に1つの専攻があるのですが、理系の中は事実上3つに分かれていて、全部で7つの括りから新しい研究をしています。

本郷の研究科に行くと、その分野の専門家で固まっているかもしれませんが、教養学部では1,2年生にいろいろなことを教えなければならないから、いろいろなタイプの先生がいるので、それを利用する横断的な教育プログラムを推進しています。

たとえば、人間の安全保障プログラム、貧困削減や平和構築など地球社会が抱えている深刻な課題に対して、どのように立ち向かうのかという研究をするだけではなく、どういうふうに世の中で実践していくのかということを念頭に置いた研究をしています。それから、科学技術インタープリター養成プログラムといって、今の学問知識をどうやって正しい言葉で普通の人に伝えるのかを考える、いわば科学技術の最先端の通訳を養成するプログラムがあります。

―社会との連携について教えてください。

山影教養学部長

教養教育が中心なので、はじめから社会への応用・産学連携を想定した学問・研究というものはあまりやっていません。しかし、教養教育として社会に開かれたものを目指して、いろいろと取り組んでいます。

まず高校生に対して、大学のいろいろな教育と学問の先端を伝える、金曜特別講座という授業を駒場で開いています。

それから、地域社会に開かれるという意味では、音楽コンサートやシンポジウムなど文化的な催し物を行い、研究という意味では、企業などと共同研究を進めています。そういう形で外との繋がりをなるべく広めようとしています。

―最後に今の学生に求めることをお願いします。

高校までの学びは、先生の言ったことを一所懸命覚えて、入試では覚えた通りに問題を解くということで、「正しい知識があって、それをいかに正確に短い時間で思い出して、自分の知っていることをどう人に示すか」が問われましたね。ところが、大学の機能である研究というのは分かっていないことだけをやるわけですから、すでに分かっているところはどうでも良いわけです。もちろん、分からないところをやっているうちに、分かっていると思っていたところが実はそうではなかったということはいくらでもあります。しかし、それでも研究者にとって、分かってしまったことに対する関心は低くて、何が分かっていないのかということばかりやっているわけです。それから、みなさんが全て研究の最先端に立つわけではないけれど、社会に出ると、答えが決まっているものなんて、物凄く少ないわけですね。少ないからこそ、国会でいろいろな論争が起きたり、政権交代するとお金の使い方が変わったりするわけじゃないですか。

何が良いかは人・考え方によって違う。だから、当然正解というものはないわけですよ。そうすると結局、社会にとって何が望ましい・正しいのだろうかということは、一人一人が考えないといけない話になります。

山影教養学部長

何が正しいんだろうというのは、正しい答えがどこかにあると思うんじゃなくて、自分で見つけないといけないと思います。しかも、それは感情で好き嫌いや、何となく良いかな、悪いかなではなくて、説得力ある理性的なロジックで、自分にとっての正しさを理解して、他人にも伝えられる、それだけの能力を持ってもらいたいと思います。

じゃあ大学の中でどうするんですかというと、講義を聴きながら、耳からどんどん入ってくることをノートに取るんだろうけれど、先生の言っていることは本当なのかな、おかしいんじゃないかな、と先生の言ったことに対する疑問を同時にメモしていかないといけないわけで、先生の言っていることをそのまま理解すれば良いというわけではありません。だから講義が終わったら、すぐに質問したり、「そこ、おかしいんじゃないですか」と聞いたりできる。

これは先生に対してももちろんそうだし、お互いのディスカッションというのでも、そうです。すると、当然、質問されたりコメントされたりする場合もあるわけでしょう。たとえば基礎演習(編注:第1学期に文科生向けに開講される講義)で、そういうトレーニングをどれだけやっているか先生によって違うとは思うけれど、自分が質問し、コメントする練習をするということは、逆に、自分が質問され、コメントされたりしたときに、「うるせぇな、馬鹿野郎」じゃなくて、きちんと聞いて、それに対して、反論するなり、納得するなり、あるいは足して2で割るなりして、他の人の言っていることに対してもきちんと反応できるようになる練習も必要なわけです。

教員の話を鵜呑みにしないで、同時に自分にとっての疑問点、教員の意見に対する自分の意見を同時進行的に、頭の1/3くらいで考えながら授業を受ける、というのが期待されています。

―追いつくのに精一杯な授業が少なからず……

そのときは追いつくだけで、あとから復習してみると良いですね。あとから見てみると、授業中は分かったつもりになっていても、実は分かっていないとか、そういうのはおかしくないだろうかということが見つかります。分からないことを分からないまま置かずに、先生に聞いたり、初年次活動センターのプログラムを利用したりして下さい。せっかくいろんな先生がいて、設備も整っているんだから、大いに利用すれば良いんじゃないかな。


前期課程で、聞いたことをただただ覚えるという高校の姿勢から、問題点を探してその答えを考えて、それを説得力ある形で相手に伝えるという大学の姿勢へ転換してほしいという想いが感じられるインタビューでした。

教養学部ホームページ: http://www.c.u-tokyo.ac.jp/


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掲載日:10-09-22
担当:大野雅博
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