理学部長インタビュー

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山本理学部長

理学部は、東京大学の開学時に発足してから現在に至るまで、理学系研究の人材育成を一手に引き受けてきている学部である。多くの偉大な研究者を絶えず輩出してきている理学部の研究理念や教育方針について、山本正幸 理学部長にお話を伺った。


―理学部ではどのようなことを研究しているのですか?

理学部は、物理学・天文学・地球惑星科学・化学・生物化学・生物科学の6つの専攻から成り立っています。学部教育は数学と情報科学も理学部として一緒に行なっていますが、大学院はそれぞれ数理科学研究科と情報理工学系研究科として理学系研究科とは独立して研究を行なっています。このように、理学系研究科では自然科学のほとんどすべてを網羅していますが、どうしてそのように色々な分野が同じ学部に所属しているのかというと、研究に対するスタンスが共通しているからです。我々のまわりにある自然界の不思議に対する答えを探る、というスタンスが理学に共通しているのです。

いくつか例をあげると、物理学では、私たちの今居る宇宙がどうやって出来たのかという研究があります。これは理論的にも取り組んでいますし、大きな加速器を使って実験的にも研究しています。天文学では、宇宙の端で何が起こっているのかを、色々な望遠鏡を使って観測しようとしています。地球惑星科学では、地球の深部はどうなっているのかとか、地震はどうやって起こるかとか、海の底ではどのようなことが起こっているかなど、人間がまだ見たことのないことを調べています。化学では、今や化学反応を反応式として見るだけでなく、分子が変化していく過程において極めて短い時間に何が進行しているかを研究しています。生物学では、生命がどうやって生まれてきたのかとか、なぜこのような不思議な人間という生き物にまで進化したのかということを調べています。これらは数多い研究のいくつかの例ですが、そもそも人間自体が自然の中の一つの存在であり、その人間が自然を認識し探究しているというのは非常に不思議な状況ですね。色々な事を考え出すと理学は哲学との接点に行き着くようなところもあります。

普段の生活では気にもかけないようなことでも、考えてみると私たちを取り囲む自然には不思議な謎がたくさんあります。そのような謎を解き明かしたいと思うのは人間の根本的な欲求ですが、謎の解明を専門として、多くの人に代わって集中的に考えているのが理学部ですね。

―学部全体としてどのようなことを目指していますか?

山本理学部長

地球とか宇宙とか生命とか、自分たちが置かれた世界をきちんと理解したいということが、理学のまさに第一の出発点です。もちろん、例えば分子生物学で生命の基本的な仕組みが分かれば、最終的には遺伝子治療などの応用につながっていくのですが、理学部の研究は何か当面の用に役立つことを特に目指しているわけではありません。解くべき問題だと思ったことに挑戦し、これまで分からなかったことを明らかにしていくというのが研究の一番大きなスタンスです。

そのような理学の研究を通じて基礎的な知識が増えていくことで、最終的には人間の生活が豊かになっていきます。理学の研究者は好きなことや勝手なことをやっているようですが、どこかで社会の基盤作りに貢献していると、長い歴史的な視点で見れば言うことができます。

―学部として、どのような教育をしているのか教えてください。

理学部の原点は研究なので、研究を継続していけるような研究者を養成するのが理学部の教育の非常に大きな目標になっています。もう一つのポイントとして、新しいことが分かって科学を研究している人達が大変面白いと思っても、それが世の中と接点を持たずに自己完結しているようでは困るので、科学と社会とのコミュニケーションということにも目を向けてもらいたいと考えています。社会に対しても目を向けつつ、研究の面白さが分かって研究に打ち込んでいけるような人を育てていきたいです。

―理学部における研究と社会とのつながりについて教えてください。

科学が専門分化していることもあり、ある程度の基礎知識がない人に研究成果の面白さを伝えることは難しい作業ですが、教育方針の所で話したように、どうして我々の研究が面白いのかとか、あるいは広い意味でどういう風に社会の役に立っているのかとかいうことについて、社会とコミュニケーションをとっていく必要を強く感じます。

山本理学部長

しかし、理学部は、目の前の応用を目指した研究課題を直接持ち込もうとは思っていなくて、やはり人類の持っている好奇心に根ざした基本的な研究課題に挑戦し続けていこうとしています。工学部・農学部・薬学部・医学部でも基礎の研究は行われていますけれど、それらの研究には、どうすれば世の中の役に立つのかといった考え方がどこかに埋め込まれています。理学部では、応用を目指す研究のスタイルではなく、本当に問題そのものに集中して深く掘り下げる研究を行なっています。理学部は理系全体のベースとなる研究を行なっているとも言えます。総合大学の中でこうした役割分担があるのは良いことなのではないでしょうか。

今、新幹線が走っているのは、大本をただせば力学があるからですが、ニュートンは新幹線を走らせるために力学を作った訳ではありません。理学部では、長い目で見て世の中に役に立つような研究をしていると言えるでしょう。

理学部を出た人の進路としては、おおまかに2/3が大学や研究所で常勤の職に就くか、ポスドクなど期限付きの職で研鑽を積んでおり、1/3くらいが企業に就職したり、高校の先生になったりしています。全体的に見て、やはり研究関係の仕事をしている人が多いです。

―今の学生に求めることを教えてください。

若者の理科離れなどと言われていて、その原因分析も色々とありますが、一つは大学受験のための勉強にどうしても集中してしまうという現実があると思います。入試に出ない科目もある程度基本的なことは分かっていないと自然科学の枠を広げる研究は出来ませんし、本来中学や高校では幅広い理科教育を受けておくべきです。MITなどではかなり前から導入されていたことですが、東大でも新しいカリキュラムから、理Iの学生も生命科学を必修科目として履修することになりました。研究のベースとなる基礎的な知識をバランスよく身につけて欲しいです。

また、理学部に来る人には、自然に対する好奇心を持っていて欲しいし、何かを知りたいという強い欲求があるのが非常に大切なことだと思います。もちろん研究には一定の基礎知識が必要だし、それは身につけていないといけないのですが、大学院以降本当に研究に打ち込めるかどうかには、基礎知識と同時に、自分がそのことについてどれだけ強く知りたいと思っているかが大きく関わります。幼い頃から中学生くらいまでに培われてきた心の中にある好奇心は大事ですね。そういうものを持った人に進学して欲しいです。三度の飯より研究することが好きとか、絶対知りたいと思っていることのあるような人に来て欲しいですね。お金儲けをしてやろうという人には向いていないかも知れません。ただし東大理学部は、科学研究費に恵まれている点では我が国有数の場所であり、豊かな研究設備もあるので、集中して研究をやりたいという人にはぜひ来ていただきたいです。

山本理学部長

大学で教わる教科とか実習とか実験とかは、これまでに分かっていることをなぞっているわけです。大学入試問題に正解があるように、学生実験などでも出てくる結果があらかじめ分かっているのですけれど、研究はそうではありません。自然が投げかけてくる問題は複雑に入り組んでいて、こういうアプローチで解けるのか、別の考え方をしなければいけないのか、などと色々な試行錯誤が要求される場面はたくさんあります。「正解」を出すことに慣れ親しんできた学生にはとまどう人もいるかもしれません。研究では細かいつまずきにあまり一喜一憂しても仕方ないので、じっくり構えて長期的に自分の不思議だと思ったことにチャレンジして欲しいと思います。一生懸命やっていれば必ず面白いことが見つかります。


宇宙の誕生、人類の誕生から話が始まりましたが、理学部で行っていることは人間の営みそのものであるとも言えること、そして真理を追究することに伴う喜びが研究の原動力である、ということが印象に残りました。また、理学部にある豊かで多様な空間とそれを支える周りの環境が理学部の良いところだと思いました。

筆者は理学部に進学することが内定しているのですが、今回の学生へのメッセージにあるとおり、強い精神を持ちながら学んでいきたいと思いました。


理学部ホームページ: http://www.s.u-tokyo.ac.jp/index-ja_ip.html


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掲載日:07-09-25
担当:麻生尚文
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