英語一列

矢口先生

英語一列(以下、英語I)は、文科一類から理科三類までの全ての学生が、一年生の一年間学ぶ科目である。東京大学教養学部英語部会編による共通教科書『On Campus』・『Campus Wide』の使用など、多くの特徴が見られるこの授業について、担当教員の一人である、矢口祐人准教授にお話を伺った。

(※ このインタビューは2007年に行われたものであり、内容に古い情報を含んでいます。2013年度からは英語一列は教科書「教養英語読本1」を使った新しい過程に移行しました。)


1.「英語一列」について | 2.学生に対して


英語Iの授業について

英語Iというのは、総合英語という形で、大人数の授業のなかで「読む」こと、「聞く」こと、さらにある程度は「書く」ことも含めて、統一教材を使って勉強する授業です。その根本にあるのは、「東大の教養学部にふさわしい形で英語を学んでもらいたいなぁ」という思いです。つまり、単に英語の力をつけるということだけではなくて、大学生にふさわしい教養の知識を身につけてほしいという思いがあって、それを基礎において作られている授業なんですね。

また、英語Iというのは常に英語二列と一緒に考えてほしくて、英語Iというのは大人数で総合英語を学ぶのに対し、英語二列というのは小さな人数でもう少しスキル別に学ぶ授業です。ですから、英語Iと英語二列は2つ合わせてワンセットという風に理解してもらいたいですね。

具体的な授業の内容としては、まず最初にイントロダクションビデオを見て、その後テキストについて勉強して、それからテキストに関連するリスニングをする、というのが基本の流れなんですね。全て統一教材による授業なんですが、どうやって教えるかは個々の先生に任されているという形です。だから、先生によって強調するところも違うだろうし、切り口もちょっとは違ってくると思いますね。

英語Iには三種類の授業があって、一般の英語Iとリスニングを重視する英語I、そしてEnglish Onlyという英語だけを使った英語Iの授業があります。もちろん、English Only以外の英語IがJapanese Onlyというわけではないのですが、English Onlyは説明も全部英語なんです。つまり、Explanation in Englishということですね。その三つの授業の中から、学生は希望に合わせて選べるようになっています。

教科書を見ればわかることですが、この授業は読む量がものすごく多くなっています。ですから、ただ授業に出席するだけでは全然意味がなくて、予習をきちんとしてきた上で、授業で提供されるワークシートに答えることで、自分の読解、つまり英語の知識と中身をちゃんと理解できたかを確認することが必要になります。

また平成18年度からはワークシートのスタイルが変わって、Open Questionが加わりました。Open Questionも先生方がみんな同じ質問を使っているわけではないんですが、何らかの形の質問を先生がして、それに対して学生自身が自分の言葉で答える、という作業をすることになっています。大きな授業では学生と先生の間が希薄になってしまうので、教材に関連することを答えてもらうことで少しでも教師との関係をつめることができたらいいなぁ、というのが狙いなんですね。それと、作文の練習という意味もあります。Open Questionの作文は、文法が間違っているとかそういったことをチェックするのではなくて、ある程度内容のあることを三行四行くらいの英語で書くということを練習してもらいたいな、という意図でやっています。

英語Iの教科書(『On Campus』・『Campus Wide』)について

英語Iの教科書

英語Iでは、夏学期に『On Campus』、冬学期に『Campus Wide』という教科書を使っていますが、この教科書も先ほど言ったような教養的な側面をものすごく重視しています。この教科書は、英語の力はもちろん伸ばしてほしいし、そういった意味では単語のレベルとか文法とかに配慮はしたけれど、それ以上に重視したのはやっぱり中身なんですよ。高校までの英語の教科書は、文法や語彙にコントロールされて中身がある程度妥協を余儀なくされていることが多いので、大学一年生の皆さんに、高校とは全然違う内容のものを英語で読んでほしいと思って作ったんです。

たとえば、『On Campus』の第一章はNorma Field先生(編註:シカゴ大学教授)と斎藤兆史(よしふみ)先生が書いてるんですが、正直言って難しい。おそらく、一年生が見たらあっけに取られて絶望すると思うんですね。でも、絶望しないでほしい。むしろ、「これこそが大学の英語なんだ」とエキサイトしてほしいんですね。そして、「そうか、自分はある程度英語ができると思って東京大学に入ったけど、もっとこんなにやることがあるんだ」というのをわかってほしいんです。一方でその内容はと言うと、「学ぶ」というのがどういうことかを斎藤先生もNorma Field先生も書いてるんですよね。斎藤先生は、この駒場キャンパスで直接一年生に向かって教えていらっしゃる先生ですし、Norma Field先生の文章はアメリカの大学生に対して語った言葉ですから、一年生の皆さんやそれ以外の大学生の皆さんの心にも響くと思うんです。そういうものをなるべく選びたいな、と思ってこの教科書を作りました。

もう一つこの教科書の特徴として、文章が毎回イントロダクションと本文に分かれているんですが、全てのイントロダクションを東大の先生が書いているんですね。しかも、英語の先生だけではないんです。たとえば、『On Campus』の一章は英語を教えている斎藤先生ですが、二章は石井直方先生という身体運動の先生、そして三章は私なんですが、四章は斎藤毅先生という数学の先生が書いているんです。これは、東大の教養学部の先生にイントロダクションの文章を書いてもらうことで、教養学部ってこんな面白い先生方がいるんだよ、ということをわかってほしいという意図があるんですね。入学したら大学に来なくなってしまう学生もいるけれど、せっかく入学したのならこんな先生方の授業を聞いてみたらいいんじゃないの?というのを伝えたいんです。そういった形で、東京大学の学生のために作られた教科書だ、ということは強調しておきたいですね。私自身も実際に教科書を作ってて面白かったですね、いろいろなことを学べて。

英語自体はものすごく難しいんだけれど、文系理系どんな専門に進むにしても、この教科書くらいの英語はしっかり読めるというところに最終的には到達してほしい、と思っています。実際、先生方でも一生懸命予習して来ないとわからないくらい難しいんです。私は文系の人間だから、理系の内容など読んでてもよく分からない章もあるんだけど、何度も読んでやっと「なるほど、こういうことか」ということもあるんですね。だから学生には、「先生が予習してきてそれでも難しいって言ってるのに、学生が予習しないで来てわからないって言われても、それは当たり前だとしか言いようがないよ」とよく言っているんです。文系でも理系でも最終的には全部わかってもらえるように、たくさん注もつけてあるから、それを使ってしっかりやってほしいな、と思います。

共通教材を利用することのねらい

矢口先生

まず、われわれ東京大学教養学部英語部会として、「東大のスタンダードを作る」という意味があると思います。つまり、英語の先生方の総意として、リスニングにしてもリーディングにしても、このくらいの内容は東大の一年生だったらできなきゃいけないよ、ということを示す必要があるんです。

もう一つは「教養の英語とは何か」ということなんですが、学生がみんな同じものを読んでその中身のことを学生同士で議論してほしいな、という思いがあるんです。『On Campus』の第四章に、すごく難しい数学の式を解いた谷山さんと志村さんの話があるんですが、この二人は駒場で出会うんですよね。まったく別の分野で同じような問題に取り組んでいて、図書館で同じ本を借りようとして。私たちは、そういった経験を学生にしてほしいと夢見てるんです。だから、教科書を読んで「あの章はここが変じゃないか」とか「ここは面白い」とか、あの先生の言っていることに同意するとか反対するとかいうことを、学生同士で話してほしいんです。実際はそんなことしないかもしれないけど、でも、してほしいな、という夢があるんですよ。そのために、一年生全員が読むような、共有するような情報を提供したい、という思いもありますね。

あとは、教えるほうの視点からすると、英語二列の授業を小さくしたいので、そのためにはもう一つの授業はある程度大きくしないといけないという事情もあるんです。教える先生方の数は限られているんですね。英語Iと英語二列の授業を提供するのに、全部均等にやってしまえばどれも50人とか60人での授業になってしまいますが、それではあんまりだろう、という気がするんですよ。英語二列は20人や25人での授業を作って、先生と学生が顔を知って名前も覚えられるという環境を作って、そういう中で英語を学ぶ授業にしたい。そうすると、もう一方の英語Iは必然的に大きくならざるを得ないんです。そのときに、一つは少人数の授業だからもう一つは大きくてもそれで満足しなさい、というわけにはいかないですよね。世の中には、100人とか120人とかでの英語教育なんてナンセンスだっていう人もいるわけですが、私たちはそのナンセンスだって言われる大きさの中でも責任を持ってきちっとしたクオリティの英語教育を提供したいな、と思っています。そしてそれを実現するためには、英語の先生方みんなで集まって相談して、これなら大人数でも英語の教育の質を維持できるんじゃないか、という教材を一緒に作っていかないといけないんです。つまり、カリキュラムの面でどうやったらもっとも効果的な授業が作れるかというので、できた結論がこの授業、この教材なんです。

大学で英語を学ぶ意義

矢口先生

学生の皆さんもよくわかっていると思いますが、これから学生の皆さんがどんなキャリアに進むにしても、英語を使わないキャリアというのはおそらくないでしょう。理系であれば、論文は全部英語で書かなくちゃいけないだろうし、発表だって海外の学会で日本語でなんて発表させてくれないですから、やはりものすごく英語が大切になってきます。だから、これは総長も言っていることだけれど「Scientific Writing」というのがすごく重要なわけです。それは文系でも同じで、たとえばこの駒場キャンパスに日本史の先生がいるけれど、その先生もやっぱり海外で英語で発表することが大切だっておっしゃってるんですね。英語は、いいか悪いかは別として、世界で何かをするときの共通語になっているわけです。それを東京大学の卒業生が世界に羽ばたいていくときにできなければ、問題ですよね。

私が思うには、アメリカ人やイギリス人と同じように話せるようになる必要はないんですよね。大学の英語というのは、世界共通語としての英語を使って、自分の主張していること、考えていることを論理立てて主張したり、相手の言っていることを理解して自分がきちんと意見を戦わせたり、という「基本」ができるようになるための教育であって、もちろんそのときの発音はいいに越したことはないけれど、重視すべき事は話す中身、書く中身だと思います。だから、私はよく学生に言うんですが、英語は目標ではなくて「とても重要な道具」ですよね。英語を使っていいことを言ったり書いたりできるような人間になるために英語を勉強するわけです。これは英語二列でも同じで、プレゼンテーションの授業はライティングの要素をすごく重視してます。もちろん、どのようにプレゼンするかも大切だから、スピーキングの練習もします。コンプリヘンションの授業も中身は結構難しいものになっていますし、リーディングの授業もかなりの語彙力を必要とするものになってると思います。先生方は将来役立つような英語力を身につけてもらうよう、いろいろな努力をしています。

今大学院生くらいになっている人は「英語は大切だ、一年生、二年生くらいのときにちゃんと勉強すればよかった」ってみんな言うんじゃない?三年生になって後期課程に進学したら英語をゆっくり勉強してる暇はないと思うから、一・二年生の間に英語を勉強しておくのはいいことだと思います。


1.「英語一列」について | 2.学生に対して

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掲載日:07-06-12
担当:金井雄太
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