情報メディア伝達論

1.情報メディア伝達論について | 2.学生へのメッセージ


前期教養学部では、大学院情報学環・学際情報学府が提供する科目がいくつか開講されています。今回はそのうちの1つ「情報メディア伝達論」を2011年より担当されている馬場章教授から、講義のこと、先生の研究テーマの1つであるデジタルゲームのことなどについてお話を伺いました。


情報メディア伝達論について

馬場先生

情報メディア伝達論は、情報学環・学際情報学府(以下、情報学環)という僕の所属する大学院が駒場の前期課程に提供している科目の1つです。

情報メディア伝達論では、デジタルゲームの研究についての紹介を主眼にして授業を行なっています。なぜデジタルゲームが情報メディア伝達論の題材になり得るかというと、今のデジタルゲームは高度でインタラクティブな情報機器になっていて、プレイヤーとゲーム機、あるいはプレイヤーと他のプレイヤーを結ぶコミュニーケーションの手段になっているからです。ただ、今の若い学生は多かれ少なかれデジタルゲームに接してはいるので、それがどういうものかということ自体を直感的には分かっています。そこで授業では、この10年くらいでゲームに関する研究が急速に進んでいるという現状を紹介しようとしています。

東大のゲーム研究

馬場先生

1・2年生は情報メディア伝達論でゲームについて学ぶことができますが、後期課程の3・4年生がゲームについて総合的に学ぶことができる授業はないのが現状です。

ゲームに関する研究は広い分野に渡ります。例えば工学部や情報理工学系研究科・工学系研究科にはバーチャルリアリティなど技術関係の先生がいらっしゃるし、経済学部・経済学研究科にはゲームのビジネスの研究をする先生がいらっしゃいます。ゲームが人に与える影響についての研究は心理学や生理学、あるいは社会学の分野ですから、文学部・人文社会系研究科になります。もし学際的・総合的にゲーム研究がしたくて大学院を目指すのであれば、3・4年生ではそれらを専門的に学んで、大学院はぜひ情報学環に来てもらいたいと思います。

ちなみに、僕の研究室には文系の学生も理系の学生もいます。そもそも大学院の学生が所属する学際情報学府は学際という名前がついているように、あまり文系・理系の違いを意識していません。ゲームに関していえば、ゲームを作ろうという学生もいるし、ゲームを使って何か研究しようとする学生もいるというように、ゲーム研究がまさに学際的な存在なので研究室もそういう学際的な形で存在しているのです。ですから、学内のどの学部からでも進学できます。

もともと僕がゲーム研究を始めたのは約10年前で、研究室の学生がゲームの研究をしたいと言ったのがきっかけでした。しかし学生が研究したいからといって、じゃあそれを研究テーマにしよう、というほど簡単ではありません。ゲームは本当に学問的な研究の対象になるのかどうか、ゲーム研究の社会的・学問的な意義は何かであるとか、そういうものを僕なりに突き詰めて考えて、ゲームこそ今研究しなければいけない対象だ、と納得できたときに、初めてゲームが学生も含めて自分自身の研究テーマになりました。

ゲーム研究自体はそんなに歴史を持っているわけではありません。特に日本は産業の面ではゲーム大国ではありましたが、ゲームの社会的な地位が低いせいでなかなか学問的な対象として見直されることがなくて、研究がほとんど行われていませんでした。そこで、ゲームを研究室の大きなテーマの1つにしたのはいいものの、ゲームの学会も当時はほとんど無かったし、大学院生が論文を発表しようとしても発表する学術的な場が無かったので、僕たちが自分で学会を作って自分で論文集も出して、ということをやりました。さらに2007年には東大にゲーム研究の国際会議を招致して東大で会議をやってもらうなどもしながら、世界的にゲーム研究の研究室であると名乗りを上げていきました。

この10年間で、東大以外でもゲームの研究をする大学は出てきました。それらの大学と東大のこの研究室と比べると、国際性が決定的に違うと思っています。例えば海外では、ゲームに関する学術的な会議が毎月1回くらい開かれているけれども、日本の研究者というのはなぜか海外のゲームの国際会議で発表しません。しかしこの研究室は、僕を始めとして学生もどんどんと海外に出ていて、国際会議に参加し、発表しています。ですから逆に、海外からは日本のゲーム研究は僕の研究室だけだと思われることもあります。

とはいえ今はまだ学際的で総合的な研究には足りないところがたくさんあるので、今後はゲーム研究をこの研究室だけでなく、ゲームに関する研究を行なっている国内外の研究室と横のつながりを作って、ゲーム研究を総合的に進めたいと思っています。

ゲーム研究とゲームプレイ

馬場先生

ゲーム研究者には2種類あります。1つはゲームを自らする研究者で、もう1つは自分ではゲームをしない研究者です。

それぞれが研究した成果を比べてみると、やっぱり自分でゲームをする研究者のほうが着眼点が鋭いところがあると思います。

実際にゲームをするというのは教員1人が頑張ってもだめなことで、学生との共同、かつインタラクティブな関係から生まれると思っています。だから授業でも学生にアンケートをとっていますが、それは今の学生がどういうゲームプレイをしているのか、僕の方で知りたいという目的があります。皆さんから情報提供してもらって、それを自分のゲーム研究のヒントにしています。毎週何十時間もプレイするという学生もいたし、東大生も決して特殊ではなくて、普通の若者と同じように普通にゲームをやっているのですよ。

僕の大学時代はまだファミコン(※1)が出る前で、主にゲームセンターでアーケードゲームをやって、スペースインベーダー(※2)とかブロック崩し(※3)とかに夢中になった世代なのですが、今は研究としてゲームをやらなければいけないわけです。すると自分が好きなゲームではなくて、研究の対象になるようなゲームをやらなきゃいけない。自分の趣味ではなくても研究として重要なのでこのRPG(※4)をやろうとか、そういうことが辛いことのひとつではあります。

もうひとつ辛いのは、日中は授業や会議があってゲームをやっている時間がないので、夜、寝る時間を削ってやらないといけないということです。子どもだったら親に叱られるような本当はいけないプレイスタイルなのですが、研究をする以上は、他の先生が寝る時間を削って文献を読むのと同じように、僕は寝る時間を削ってゲームをやらないといけない。やらなきゃいけないという義務感が発生するとやっぱり辛くなります。

ですから、研究として取り上げるべきゲームソフトが出たら夢中になってそれをやるので、そのときのゲームプレイ時間というのは1日10時間を超えることもあるし、徹夜でやることもあります。ところが注目すべきゲームタイトルが無い時期はほとんどゲームしないこともあります。ちなみに最近ではソーシャルゲームのパズドラが人気なので、研究室でもパズドラの面白さをゲームデザインの観点から分析したんです。そのときはすごくやり込みました。このように、僕のゲームのプレイ時間には波があります。

※1 ファミコン…1983年に任天堂が発売したゲーム機「ファミリーコンピュータ」のこと。ファミコンの発売がきっかけで日本に家庭用ゲーム機が普及した。

※2 スペースインベーダー…1978年にタイトーが発売したアーケードゲーム。迫ってくる敵に弾を撃って撃退するゲーム。ゲームセンターやアーケードゲームの普及に貢献した。

※3 ブロック崩し…1976年にアタリが発売したアーケードゲーム「ブレイクアウト」及びその類似品を指す。バーを操作してボールを跳ね返して壁を壊すゲーム。

※4 RPG…ロールプレイングゲーム。ここではキャラクターを成長させながらストーリーを進行させるタイプのデジタルゲームのこと。

ゲーム研究と産学連携

先ほど僕の研究室の特徴の1つは国際性だと言いましたが、もう1つの特徴として産学連携という方針があります。日本のゲームは基本的に、研究よりも産業の方が先行して進んできた分野なので、産業界と連携していくことが大事だと考えています。デジタルゲームには作品と商品という2つの側面がありますが、作品としてみた場合に、出来上がった作品だけを鑑賞する、つまりプレイするのではなくて、それがどのように作られたのかというところまで遡って研究しようとすると、クリエイターの人たちと親しくならないと研究が進まないということがあります。だから、この研究室の学生はよくゲーム会社に行って、クリエイターの人や経営者の人にインタビューさせてもらったりヒアリングさせてもらったりして、直接ゲームを開発している人、あるいはディストリビュートしている(※)人たちの声を大切にしています。そういう産学連携というのもこの研究室の特徴の一つで、国内だけでなく海外のゲーム開発者の人たちやゲーム会社の経営者の人たちとも交流を深めています。

業界の人たちとのネットワークは10年以上をかけて必死で構築してきました。本来ならばクリエイターたちや業界の人達しか集まらないような会合でもどんどん出て行って、それで知り合いになったり友達になったりします。また、大きいゲーム会社とも小さいゲーム会社とも等距離で付き合うようにしています。

※ディストリビュートしている…流通させている。

ゲーム業界を目指そう

僕の研究室の学生は、小手先のゲーム研究ではなくてゲームの本質を考えようという研究をしているので、ゲーム会社の求人の倍率が非常に高い中で即戦力にはならないかもしれないですが、何年か経って大学院で研究してきた内容がうまく実を結んで優れたコンセプトを出してくれるのではないかと期待しています。ゲームを作るには創造力が必要で、新しいビジネスモデルを創ったり最先端で新しいゲームを創り出したりしていく。企画書通りに作品を作るだけで終わるのではなく、最終的には自分で企画を提案できる。そういうゲーム開発者を育成したいと思っています。だから、ゲーム業界を目指そうと思う東大生にはいい意味でのエリート意識を持ってもらいたいと思います。将来ゲーム産業界をリードする、あるいはゲーム業界を背負って立つ、それくらいの気概を持ってもらいたいと思います。

例えば今、日本国内で作り上げられるゲーム開発技術というのは無くなってしまっていて、ほとんどがアメリカから入ってきています。そうすると、開発技術のマニュアルはほとんど英語で書いてあるわけです。現場の開発者の人たちは英語のマニュアル読むのが苦手ということがあるのですが、東大生は比較的英語に対するアレルギーが無いし、読解のポテンシャルもあるので期待ができるわけです。

その期待に応えてどんどんアメリカの技術を学び、さらに逆に日本からアメリカにゲーム開発の技術を輸出していけるような、マニュアルの日本語訳を読んで理解するような開発者とは明らかに違う、そういう意味でのエリート意識を持ってもらいたいなと思います。また、日本のゲーム市場がだんだんと縮小していくといわれている中で、今後は海外進出が大事になってきているわけです。ですから、海外に出て行って海外のゲーム会社と対等に渡り合えるような英語力が必要だし、度胸や気概が必要になってくるので、そういう意味でのエリート意識を持ってもらいたいと思うわけです。

だから東大生にゲームの授業をするというのはすごく大事なことだと思っています。今のアベノミクス(※)でいえば、コンテンツ産業も成長産業の1つと言われていますが、コンテンツ産業の中で一番伸びる可能性があるのは実はゲームなのですよね。現在でも日本から海外に輸出されるコンテンツの7〜8割がゲームなのです。これまでアニメにしても映画にしても、だいたいは貿易収支でいうと赤字になっているのだけども、ゲームだけはずっと黒字で来ている。そういう意味ではコンテンツ産業の中でゲームというのは優等生なのです。まあそれは任天堂もソニーも日本由来のグローバル企業なので当然なのですが、それでも海外に押されているという現状がある中で本当にゲーム産業を引き続き日本の成長産業にしていくのであれば、優れた人材がどんどんゲーム業界に入っていく必要があると思っています。

東大生がゲーム会社に就職しようとすると親御さんが反対するとか、そういう極めて現実的な問題があるかもしれませんが、それはまだゲームというものが社会的に、日本の国内では正しく認知されていないからなのかなと思います。本当はゲームというのはIT産業だし、IT産業の中でも実は経済波及効果が非常に高い産業なのです。そういう意味では成長産業だと思うわけで、どんどん東大生にゲーム業界に行って欲しいというのは、僕がゲーム研究をやっているからではなくて、日本の産業全体のことを考えた場合でもとても重要なことだと思います。

※アベノミクス…2012年に成立した第2次安倍内閣が打ち出した経済政策の通称。


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掲載日:13-10-20
担当:鈴木僚太
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